Irohabook
0
324

「チャーチルに学ぶリーダーシップ」の感想と人生の処世訓

第二次世界大戦でイギリスを戦勝国に導いたチャーチルは、戦後のイギリス国民が最も尊敬する政治家になった。2002年に BBC が行った「100 Greatest Britons」(最も偉大なイギリス人)という調査で、チャーチルはニュートンやシェイクスピアを抜いて一位になった。

スティーヴン・F・ヘイワード著「チャーチルに学ぶリーダーシップ」(竹田純子訳、トッパン、1997年)は、チャーチルの業績から人生の処世訓をひもといた本である。以下、太字は本書から引用したものである。

チャーチルが成功した理由

チャーチルは名演説家として有名だが、若い頃は英語のなまりに苦労していた。英雄になるまで泥臭い失敗を踏んでいた。彼が成功した理由の一つは、うまく努力し、自分に適切な習慣を身につけたことにある。

  1. 歴史的想像力
  2. 一貫性をもつ
  3. 責任を認識する
  4. 簡潔に表現する
  5. 変化をつくる

歴史的想像力

本書第一章のサブタイトル「歴史的想像力」はチャーチルの思想をうまく表現している。チャーチルは誰よりも歴史を学び、過去の理解によって未来を見渡そうとした。歴史はくりかえすという言葉を信じ、歴史は彼が触れるすべてのものに浸透し、その政治の源、強力な統率力の秘訣(p22)になった。回顧録「第二次世界大戦」でノーベル平和賞を受賞したが、これはチャーチルが歴史を重視したあらわれの一つであった。

チャーチルはナポレオンに関心を持っていたが、執筆した有名な歴史書は「モールバラ」である。モールバラはチャーチルの先祖であり、フランスに抗った政治家である。モールバラは、チャーチルがまさに評されるところの冷静さを備えた人物だった。

チャーチルは歴史を学び、認識し、自分の体とつなげることで、自分に与えられた使命と、それを実現するための方法を習得していった。

一貫性をもつ

チャーチルは昼寝などのユニークな生活習慣を持ち、政務や事務を緻密に設計・計画した。完全主義に懐疑的だったが、一貫性は重視した。

本書の内容とややずれるが、私は「一貫性」と「選択と集中」は似ていると考えている。一度決めた方針をまず貫くという態度は、第一にリスクの選択であり、第二に資源の集中である。

チャーチルは「これらの問題はすべて、何らかの中心的構想からはずれていなければ、うまい具合に解決できます」(p110)という言葉を多用し、第二次世界大戦では鉄と機械にこだわった。初期から第二次世界大戦が大規模な総力戦になり、機械と機械が破壊しあう戦争になることを予想していた。

彼に先見性があったおかげで、イギリスはドイツの状況をみきわめながら戦闘機を製造し、空中戦でドイツに勝利した。

責任を認識する

大きな権限を持つことは、大きな責任を持つことと表裏一体である。人を率いるすべての人はこの事実を知りながら、組織を運営することに失敗する。チャーチルは、意思決定者が責任を不明確にすることにいらだっていた。

チャーチルは行政改革を行ない、機能を分担して責任の所在を明らかにした。責任のある者は、その責任によってすばらしい行動を実現すると知っていたのである。そしてチャーチルは諮問委員会の類をひどく嫌悪していた。

権限の委譲と機能の分担にあたってチャーチルが目指した行政は、簡潔なシステムだった。複雑さを嫌い、簡潔さを好むという性格は、次の言語的な癖からもうかがえる。

簡潔に表現する

チャーチルは官僚的な表現や冗長な言葉づかいを嫌い、単語や文のつづりや音に敏感だった。チャーチルは歴史と古典を熱心に学び、バランスのとれた英語感覚を身につけていた。

1940年8月、チャーチルは内閣全体に「簡潔な文章」に関する覚書を書いている。本書からその覚書の四つの事項を引用する(一部さらに短くまとめる)。以下は本書 p143 にある。

  1. 短く簡潔なパラグラフを書く
  2. 複雑な要因や統計などは付記にする
  3. 覚書などは口頭説明でもかまわない
  4. 不明瞭な表現はやめる

チャーチルは、複雑な文章は思考過程が雑な証拠であると考え、言葉づかいについて部下をよく注意した。また、重要なことはすべて書いた。1940年秋になると「日報は一ページ以内に収め、週報はきちんと要約して出すように」(p142)と命じた。

変化をつくる

チャーチルは忙しくても休暇をとったが、それは休むためというよりも変化を作るためだった。「人間に必要なのは、変化」(p165)であり、変化のない環境や同じペースは自分を疲弊させると考えていた。

彼は旅行したり昼寝したりすることで、人生を肉体的な時間と精神的な時間に分けた。それは少なくともチャーチル自身にとって、仕事をうまくなしとげるために必要だった。

まとめ

本書を通じて理解できたチャーチル像は、「歴史を学び」「複雑さを避ける」人物である。多くの政治家はナポレオンとチャーチルを研究するが、チャーチルもまた歴史と古典を研究していた。

第二次世界大戦はモルガンという銀行家と深く関係している。1920年代に恐慌が起きたとき、ジョン・モルガンはバブルを作ったとして責任を追求された。モルガンが世界恐慌の原因であるという証拠はないが、金融機関の大きな権力が経済を麻痺させたという現象はリーマンショックとなって再び起きた。

宗教的な対立が戦争を作ることや、扇動的な政治家が戦争をひきおこすことも歴史がいつも見てきたことである。歴史は同じところを回っている。多くの人はそうと知っていながら堅実な行動に結びつけられない。チャーチルは歴史的想像力によって歴史的人物になった模範であるといえる。

人生の処世訓

政治の話題が中心となっている本書から、人生の処世訓をひっぱると次のようになるかもしれない。

  1. 歴史の中にいることを強く認識する
  2. 簡潔に行動する
  3. 自ら変化を生みだす

参考文献
スティーヴン・F・ヘイワード著「チャーチルに学ぶリーダーシップ」(竹田純子訳、トッパン、1997年)

名言

The price of greatness is responsibility.
偉大さは責任の犠牲にある。

次の記事

ミニ自己啓発