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イスラム教の基本的な解説(ムハンマド、六信五行、スンニ派とシーア派)|高校倫理

イスラム教はアッラーを唯一神とする宗教で、預言者のムハンマドを教祖とする。ユダヤ教とキリスト教の影響を受けている。イスラム教の聖典はコーラン(クルアーン)である。

コーラン

ウィキメディア・コモンズ『コーラン』

イスラム教はユダヤ教のヤハウェとキリスト教の神をアッラーとしている。イスラム教においてユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神はすべて同一である。ユダヤ教のモーセ(エジプトで奴隷の扱いを受けていたイスラエル人を脱出させた人物)とキリスト教のイエスを預言者とする。

ラマダーンの断食、利息の禁止など、イスラム教は信仰と行動を強く結びつけている。金を貸して利息を得るという銀行の商行為は欧米やアジアで広く行われているが、イスラム圏の多くの国では利息を直接得る商行為が禁じられている。

イスラム教の規範として①六信五行、②シャリーア(コーラン含む)、③偶像崇拝禁止の三つがある。イスラム教徒の信仰と行動の原理を端的にまとめたものを六信・五行という。六信は六つの信仰、五行は五つの行動をさす。

六信

  • 神  … アッラー
  • 天使 … 神と人間の中間的な存在
  • 啓典 … クルアーンやモーセ五書など
  • 預言者 … ムハンマド、イエス、モーセなど
  • 来世 … 最後の審判後の世界
  • 天命 … 神によるこの世の定め

イスラム教にとって神はアッラーであり、唯一である。すべてのイスラム教徒はアッラーを信じなければいけない。

天使はキリスト教のガブリエルなどを含む天使。ガブリエルは大天使であり、イスラム教ではジブリールという。ムハンマドはメッカのヒラー山の洞窟において、ジブリールから啓示を受けて預言者として目覚めたとされる。

メッカはイスラム教最大の聖地であり、巡礼(五行の一つ)において行くべき場所とされる。

OldmapofMecca

ウィキメディア・コモンズ『メッカ』

啓典はモーセ五書、ザブール、福音書、クルアーンの四つからなる。モーセ五書はユダヤ教とキリスト教の旧約聖書にある創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記の五つ。ザブールはダビデの詩、福音書はイエスの福音のこと。

預言者はムハンマドだけではなく、モーセやイエスなどの預言者も含む。イスラム教においてムハンマドは最後の預言者とされる。

来世は最後の審判後の世界のこと。イスラム教でも最後の審判という概念がある。天命は神が定めたこの世の予定のこと。

五行

  • 信仰告白 … 「アッラーの他に神なし。ムハンマドはアッラーの使徒である」
  • 礼拝 … 1日5回の礼拝
  • 断食 … ヒジュラ暦9月のラマダーン
  • 喜捨 … 貧しい者を救済する
  • 巡礼 … メッカなどに行くこと

五行をイスラム教世界の言葉で次のようにいう。

五行 イスラム教での言葉
信仰告白 シャハーダ
礼拝 サラート
断食 サウム
喜捨 ザカート
巡礼 ハッジ

高校倫理のイスラム教の五行に「信仰告白」とあるが、「信仰告白」という言葉自体は信仰を告白するという意味であり、キリスト教にも信仰告白は存在する。

ヒジュラ暦の9月(ラマダーン)の日の出から日の入までの間、イスラム教徒は断食(サウム)を行う。ヒジュラ暦とは、イスラム教世界で使われている暦法(イスラム歴)で、ユリウス暦622年(7月16日)をヒジュラ暦元年とする。

ヒジュラは、ムハンマドがメッカからメディナに移ったことを意味する言葉で、日本語では聖遷という。

シャリーア

シャリーアはイスラム法とも言われる、イスラム国家とイスラム教徒の規範とルールである。イスラム圏では飲酒が禁じられているが、飲酒の禁止もシャリーアの一つ。

シャリーアは各人の生活と道徳について解くが、行政や裁判といった国のルールについても言及するため、「六法全書と国際法を合わせたような性格(ウィキペディア「シャリーア」より引用)」という表現を受ける場合もある。

シャリーアは以下の四つに基づく。

  • クルアーン
  • ハディース
  • イジュマー
  • キヤース

偶像崇拝禁止

イスラム教は偶像崇拝を厳格に禁止している。アッラーを像にすることはできない。

ジハード(聖戦)

ムハンマドは当時の社会から迫害されてイスラム教をつくりあげた。ムハンマドは622年にメッカからメディナに逃れるが、イスラム教が広まった後、630年にメッカを征服した。ムハンマドはイスラム教を広めるために努力を惜しまなかった。

ムハンマドのこうした努力はジハードという考えで、イスラム教の普及を下支えしている。ジハードは聖戦と訳されるが、これは「神のために努力する」という意味であり、本来は「戦争する」という意味を持たない。

宗派

イスラム教は宗教であり、同時に社会的な規範である。イスラム教の教義を守る共同体(社会)をウンマという。ウンマが大きくなる過程で、イスラム教はスンニ派とシーア派という宗派に分かれた。

この分裂はそもそもムハンマドの後継者をどうするかという考えの違いから起きている。歴史的に見るとイスラム教は始まったときから宗派の分裂という問題を抱えている。スンニ派はムハンマドの血筋にこだわらない派であり、シーア派はこだわる派である。

1980年代のイラン・イラク戦争(1980-1988)は石油をめぐる戦争だが、根本にはスンニ派とシーア派の対立があった。

イスラム教世界とキリスト教世界の交わり

十字軍とは、キリスト教世界の国がエルサレムをイスラム教世界から奪還するために行った戦争である。第一回十字軍は1096年に始まった。

十字軍は異教徒に対する弾圧という負の歴史を持ちながらも、キリスト教とイスラム教という異なる文化が交わる契機にもなった。ギリシャ語で書かれた学問がアラビア語(イスラム教の主な言語)に翻訳され、逆にアラビア語の文献もラテン語に翻訳された。

センター倫理の過去問

センター倫理の過去問(問題のみ)を引用します。解説の著作権は当ページにあります。掲載の都合上、問題文を一部変えています。あらかじめご了承ください。

2016年(第2問の問2)

次のシャリーアについての説明の正誤の組合せとして正しいものを選べ。

(ア)
シャリーアは、クルアーン(コーラン)などに基づき、豚肉を食べることや酒を飲みことなどを禁じるなど、食生活に様々な制限を設けている。

(イ)
シャリーアは、結婚や相続など、ムスリムの生活全般の規則を定めており、シャリーアを守って生きることが神への信仰の体現であるとされる。

(ウ)
シャリーアは、神と人との関係と人間同士の関係の両方を規定しており、神に対して果たす義務である五行には、礼拝、瞑想などが含まれる。

① ア 正 イ 正 ウ 正
② ア 正 イ 正 ウ 誤
③ ア 正 イ 誤 ウ 正
④ ア 正 イ 誤 ウ 誤
⑤ ア 誤 イ 正 ウ 正
⑥ ア 誤 イ 正 ウ 誤
⑦ ア 誤 イ 誤 ウ 正
⑧ ア 誤 イ 誤 ウ 誤

解答

シャリーアはイスラム法とも言われる。シャリーアまたはイスラム法は、イスラム教徒の生活と行動を定めるもので、主にクルアーン、ハディース、イジュマー、キヤースの四つに基づいている。

アは正しい。シャリーアはクルアーンなどに基づいている。また豚肉と飲酒の禁止もシャリーアに含まれる。

イは正しい。シャリーアは結婚や相続などの細かい規則も含む。またそれを守ることが神への信仰の体現である。イスラム教はクルアーンやシャリーアを守ること自体がイスラム教への信仰につながる。多くの宗教はイスラム教のように信仰と行動を固く結びつけている。民族宗教の一つであるユダヤ教が律法の遵守を要求することを思い出そう。

ユダヤ教の解説

ウは誤り。途中までは正しいが、五行に瞑想は含まれない。五行は信仰告白、礼拝、断食、喜捨、巡礼。瞑想は仏教の八つの正しい修行(八正道)にある。

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