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連載小説

中学受験小説・第5話「親友と絶交」その3(算数の目覚め)

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連載小説ペンは剣よりも強しは実話にもとづいて書かれた受験物語です。劣等生が開成中学校に合格するまでの軌跡が余すことなく描かれています。ぜひTwitterやFacebookでシェアしてくださいね。

この物語は絶望的状態からはいあがる出世物語です。受験生だけでなくビジネスマンにも読んでいただきたい作品となっています。

前回の話:第5話「親友と絶交」その2(全国試験)

これまでのストーリー

「ペンは剣よりも強し」全話目次(第1話〜)
第5話「親友と絶交」その1(人間不信)
第5話「親友と絶交」その2(全国試験)

第5話「親友と絶交」その3(算数の目覚め)

試験は普段の校舎で行われた。SクラスとAクラスの生徒がランダムにいくつかの教室に分かれ、真一郎は知り合いが誰もいない教室で受験することになった。せめて内野や小森がいれば心を落ち着かせることもできただろう。試験の開始を一人で待っている時間はとてもつらかった。

最初はいつものように国語である。国語の解答用紙をすべて埋めることが第一の目標だ。選択問題はカンでもいいから答え、文章は多少理解できなくても最後まですぐに読むことを意識した。しかしあいかわらず難しく、あいかわらず全然解けず、当初の予定はほとんど実行されなかった。「文章をすぐに読む」ことはできず、莫大な時間を読むことだけに使ってしまった。

問題は全部で四問あった。第一問は小説、第二問は説明文、第三問は漢字と語彙に関する小問群、第四問は詩だった。量が多く、詩までできるかかなり怪しい。第一問の小説は今までのテストに出てきた小説と比べて、明らかにつまらなかった。登場人物もあまりしゃべらないし、何を考えているかわからない。

(なんなんだよ。全然わかんないよ!)

イライラしながらカンで解いていき、とりあえずすべての解答を埋めて次の説明文に移った。恐竜の絶滅に関する話だ。宇宙の話は好きだったが、生物の話はまるで興味がなかった。隕石が落ちて死んだ恐竜に一ミリの知的好奇心も起きなかった。恐竜の皮膚は固くてウンタラカンタラ…という文章は途中で読んでいられなかった。難しい漢字が多く、退屈で難解だ。

気づくと残り十分になっていた。問題文を読んだばかりというのに、あと十分しかない。これは何かが間違っていると思った。あまりに時間が短くないか? こんな長くてつまらない文章を四十分で読めるはずはない。

…キーン、コーン…

試験が終わった。いつものように解答用紙が後ろから回ってくる。

(四十分であんな大量の問題を解けるはずがない。そんなはずは…)

後ろからきた解答用紙は答えがびっしり埋まっていた。

(おいマジかよ…なんで…)

自分の解答用紙を上にのせて、前に送る。この作業はもう慣れた。考えなくても手が勝手に動く。

(俺はそんなにバカなのか…?国語じゃ人に絶対勝てないのか…?)

…キーン、コーン…

五分という短い休憩の後、算数のテストが始まった。全部で八問。普段は十五問くらいあるから、それよりだいぶ少ない。それもそのはず、一問一問が週末テストよりずっと難しく、見たことのないタイプの問題がずらりと並んでいたからだ。

真一郎はいつも気合いを入れて解いているわけでなかった。算数は解くこと自体が面白いので、八問のうち六問は楽しみながら解いた。普段のテストよりずっと楽しかった。週末テストはいつも単純な計算問題がたくさん入っていたが、今回はいきなり高難易度の図形の問題が出てきた。

最後に残った二つの問題は、結果として正答率0.01%になる問題になった。一つは立方体の切断面の形と面積を求める問題。もう一つは鏡の反射に関する問題。

立方体の切断そのものはワンパターンだったが、この問題は立方体を二つの方向から同時に切断し、指定の線が完全に消えるまでの時間を求めるという、速さも混じった問題だった。速さそのものは習っていない。真一郎は父の命令で小学六年生の問題集を解いていたので、旅人算のような問題は解けていた。しかしこの問題は速さの問題でありながら、速さでない。速さの公式などそもそも使わないのだ。

これは純粋な思考力と直感力が試される問題だった。真一郎は残り二十分の時間を二つに分けて、最初の十分でこの立方体をどうにか解こうとした。座標を描いて、切断時間と長さの関係をグラフにする。グラフに描かれる二つの直線の交点を図形的に求めた。これこそが問題の要求する解答だ!

グラフを使って解いたことにひどく満足した。これはただのグラフでない。自動車が何時間走って何キロ走るというくだらないグラフと違うのだ。自分は図形の切断という現象をたくみにグラフ化した。自分で自分を天才だと思った。

いよいよ最後の鏡である。光が鏡に反射してスクリーンで着く。鏡とスクリーンの間に三枚の鏡をいろいろな向きで並べて、スクリーンの点の移動先を計算するというものだ。鏡の問題は、鏡を中心に入射光を鏡の裏に(線対称に)描いて、直線状の光がただ入射しているように考えるところからスタートする。これもある程度はパターンでどうにかできるということだ。

しかし最後の小問は違った。鏡を立体的に置いた時の光の位置である。二次元に配置された時の解き方はパターン化されているが、三次元は聞いたことがない。真一郎は残りの十分をここに使わず、今まで解いたものの確認に使った。計算ミスしていないか、解答用紙の記述文は妥当か。見直しが完了した時、頭にふと面白いアイデアが浮かんだ。

反射という操作を数の置き換えにして、光の進み方を数列に見立てればいい。あとは数列の規則性からゴール地点を計算する。三次元座標という概念を知らなかった少年は、座標を数の集まりとして書き、光が進むとその並びが三つの等差数列のように変化していくと考えた。反射すると、一部の数列の変化が逆になる…数を地味に追いかけていくと、光の到達点がわかった。このややこしい、雑な方法を最後の二分くらいで解答用紙に書いた。

…キーン、コーン…

算数の試験が終わると、真一郎はすべてを出しきったように腕を伸ばした。今日くらい遊んでもいいな、と思った。

…翌週、真一郎は気楽な気持ちで火曜日の授業に出席した。なにしろ席替えがない。週末テストは席替えがあり、火曜日はだいたい憂鬱だ。火曜日の授業が始まる前、席順が公開され、自分のダメな成績が全員に公開される。国語の時間中に詳細報告書が配られ、全国を基準とした偏差値が発表される。「ああ、なんて憂鬱だ」と誰しも思っていた。

しかし今週は席替えがない。全国試験で席替えはないからだ。

「なあ坂本ちゃん、あの国語やばくなかった?」

涼介は真一郎に愚痴を言った。

「俺全然解けなかった。でもあれは問題が悪い。俺のせいじゃない」

「俺もダメだったよ。わかってたけどね」

「漢字はどうだった?」

「全然。あ、『留学』はわかった」

「それは俺もわかった。詩は?俺詩の問題ほとんどできなかった!まじで悔しい!」

真一郎もできなかった。いやできなかったというレベルでない。解答用紙に埋めた解答はすべてデタラメ。合っているはずがない。この二人は国語がからっきしダメで、ダメという評判は塾のいたるところに伝わっていた。二人はその共通項から友だちになったのだ。

…国語の時間中、全国試験の結果が配布された。

国語点数 13点
国語偏差値 24
国語順位 24,715位/28,419人

血の気が引くと思った。国語の偏差値が二十四。偏差値は普通、三十をなかなか切らない。解答用紙は黒でたくさん埋まっていたが、正答率は最悪だった。

続いて算数の結果を見た。

算数点数 100点
算数偏差値 89
算数順位 1位/27,835人

算数は満点で、約三万人の一位だった。百点というスコアと一位という順位に驚いた。国語の点数でショックを受けて、算数の点数でもショックを受けた。二科目偏差値は五十九だった。ギリギリ偏差値六十に届かなかった。

塾長の言葉を思いだした。偏差値が六十いかない者は、ここで志望校を変更しないといけない。

(俺は東京中学校に入れないのか?)

続き:第6話「新しい友だち」その1(四年生に進級)

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