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ドラッカー「経営者の条件」の要約:時間の使い方と意思決定

ドラッカー「経営者の条件」はダイヤモンド社(上田惇生訳)から2006年に出版されました。この記事は本書をわかりやすく解説することを目標に、随時更新されます。2011年11月30日第19版より重要な文章をいくつか引用しますが、引用元はページ数のみを記載します。引用元文献はドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社「経営者の条件」です。

八つの習慣

本書は最初のページで結論を述べています。仕事の成果を上げるための八つの習慣です。

なされるべきことを考える
組織のことを考える
アクションプランをつくる
意思決定を行う
コミュニケーションを行う
機会に焦点を合わせる
会議の生産性をあげる
「私は」ではなく「われわれは」を考える

本書「成果をあげるには」p2

本書はあえて習慣という言葉を使っています。習慣とは普段から行うこと、怠らないことです。習慣が結果を生むことはアリストテレスがすでに主張していたアイデアですが、三日坊主という言葉があるように、私たちは習慣をサボる習慣も持っています。

上の八つは「そう言われるとわかるが、つい忘れてしまいそうなこと」です。しかし本書を丁寧に読んでいくと、成果を上げている多くの人たちが意識してこれらを習慣にしていたことがわかります。意識することが大切であり、それこそが知識労働者が成長できる鍵です。

以降、本書をわかりやすく説明するために、ドラッカーの考えを三つに絞って紹介します。

  • 時間の使い方
  • 貢献
  • 意思決定

時間の使い方1(自分の時間を徹底的に調査しなさい)

ドラッカーは時間を資源と考えています。顧客からこうしてほしいという要望はいつも増えるが、担当者一人の時間は劇的に増えることがない。私たちに与えられた時間はほぼ平等であり、ドラッカーは睡眠時間を削って時間を作るべきだという主張をしていません。

仕事をするうえで時間は制約になります。しかし私たちは時間をうまくコントロールできません。コントロールしなければ、どの時間が効率的で、どの時間が無駄であるか把握することはできません。

時間をコントロールするためには、時間の使い方を記録することが不可欠だとドラッカーは説きます。プライドの高い人は、自分の時間が有意義に使われているはずだと思うでしょう。会社から一見すると無用な仕事を押しつけられている人は、自分の時間が無意味に使われていると思うでしょう。しかしそれらは主観的な記憶に依存しています。他人に自分の時間をチェックさせるなどして、自分の時間が具体的にどのように使われて、どのように成果につながっているかを調べる必要があります。

本書ではユニークな例を示しながら、人間がいかに自分の時間を把握しないか、自信過剰に時間をコントロールしていると錯覚するか、を述べています(p48)。

時間の使い方2(時間をまとめなさい)

数十年前は「1個の生産に10分かかる。今日は30個必要だから、あなたに5時間作業してほしい」と具体的に作業時間を決められた。しかし現在の知識労働者にこのような具体的な時間を割り当てることはできない。

5分おきに何かをする、という細切れのスケジュールはとても非効率であり、実際に成果はあがらない。コミュニケーションにしても最低1時間は必要でしょう。

成果をあげるには大きな固まりの時間が必要である。いかに総量が大きくとも細分化していたのでは役に立たない。

本書「汝の時間を知れ」p50

時間の使い方3(重要なことだけに集中しなさい)

経営学でほとんど当たり前のように言われる概念の一つが「選択と集中」です。一人ひとりの時間の使い方も同じように、ある一つのことだけに集中するべきだとドラッカーは説きます。

選択と集中の例外はモーツァルトであり、天才的な著作物を作らないといけない責任はない私たちは、モーツァルトを例外としなければいけません。ドラッカーは一つのことだけに集中しなさいと、本書の随所でくりかえし主張しています。

二つはおろか、一つでさえ、よい仕事をすることは難しいという現実が集中を要求する。

本書「最も重要なことに集中せよ」p139

会社の事業が増えたり一人ひとりの作業量が増えてくると、当然時間が足りなくなり、あれもこれも状態になっていきます。官僚的な組織は事務作業が新しい事務作業を要求する循環に入ることで、多くの人が一つの仕事に集中するという原則からはずれていくわけです。

そこでドラッカーは「過去を計画的に廃棄する」ことを提案します。非効率になっているもの、利益を生まないもの、それ自体が目的になっているもの。そういった過去を処分するのです。

貢献(努力ではなく貢献に焦点を合わせる)

上の者が下の者に仕事を求めるときのやり方で、組織全体の成果が変わる。「その人にどのような努力をしてほしいか」を考えてはいけない。「その人にどのような貢献をしてほしいか」を考えることが大切です。なぜなら努力に焦点を当てることは、組織全体の成果を第一に考えた結果ではないからです。

貢献に焦点を合わせない限り、温和で豊かな人間関係は意味を持たない。逆に、人間関係が多少こじれたとしても、チームの全員が貢献に焦点を当てている限り、人間関係は壊滅的に破壊されることはない。

貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な能力を身につけることができる。

本書「どのような貢献ができるか」p93

単にコミュニケーションできるという能力は成果につながらない。ドラッカーはコミュニケーション能力という言葉がひとり歩きしている有様を嘆いていた(p93)。

意思決定1(前提条件)

意思決定は経営者のみの仕事ではありません。多くの場面で多くの人が行うことです。意思決定の全体が会社の方向性につながります。ドラッカーは次の注意点をあげています。

  1. いつも本質的な問題を認識しなさい
  2. 意思決定の数を少なくしなさい
  3. 意思決定の時間を短くしすぎてはいけない

迅速な意思決定は必ずしも善ではない。短い時間しか要しない意思決定がいくつも集まるほうがかえって危険であり、意思決定の数はなるべく減らすべきであるとドラッカーはいいます(p154)。

意思決定2(正しい意思決定)

ドラッカーは言葉を変えて何度も「意思決定は事実からスタートしない」といいます。これはどのような意味でしょうか?

市場分析などから事実を見つけ、「だからこうするべきだ」と考えて、それを参加者全員が共有する。この時、二つの意味で参加者はミスをおかしています。一つは自分の意見を最初に言わないこと。もう一つは、分析がいくつかの仮説から成り立っていること。

統計分析の素晴らしい専門家は、自分の統計データがある種の仮説のもとに作られていることを知っています。だから意思決定において統計データを基礎に置くことの危険性を知っている。

実際、意思決定に関わる参加者は自分の専門領域を持っています。私は資金調達、私は開発、私は人事。そういった複数のバックグラウンドを持つ人たちが成果につながる意思決定を行うためには、自分の意見をまず言うことです。

さまざまな意見の上に、統計データなどの事実を置くのです。意見だけではまともな結果は生まれません。しかし意見を前提に置かなければ、各種分析の効力が失われます。事実を最初に置いた時点で、自分たちが望んでいるだけの(成果に焦点を当てていない)ものを、事実の根拠に置いてしまうのです。

イギリスの哲学者ベーコンは400年も前に「イドラ(偏見)」を分析していますが、私たちが偏見からほとんど免れられないことは明らかです。重要なことは、私たちの行動は(たとえ科学的であっても)偏見を土台にしていると、全員が強く認識することでしょう(この点は個人的な考えによる)。

意思決定3(意見の不一致)

意見が不一致になることは、実は成果をあげるために必要です。創造するには、人の豊かな感性が必要になりますが、それは自分と他人の違いからやってきます。これは人が持っている知的な競争本能にもとづくものでしょう。

ドラッカーは、成果をあげるために意見の不一致が必要であるといいます。

しかし意見の不一致が人間関係の悪化につながる可能性を持つことは、多くの人がすでに経験していることです。自分の意見を曲げない、自分の意見に確信を持っている。逆に相手の意見は間違っていると確信する。こうした考えの不一致こそが現代のフラストレーションの一つになっていますが、ここで意思決定の前提を思いださなければいけません。

意思決定は、成果をあげることに焦点を当てなければいけない。意思決定に関わるすべての人は、第一に成果を考え、その上で自分の意見を出し、相手の意見を尊重しなければいけない。

意思決定4(何もしないという選択)

何が起こるかという問いに対して、「何も起こらない」が答えであるならば、手をつけてはならない。

本書「成果をあげる意思決定とは」p207

慌てている人は変革にばかり目がいきます。しかしそれは破壊的なリスクをともなう可能性があります。「何もしないことがリスクである」という考えは、ドラッカーは直接的には主張していません。

それよりも「何もしなかったときのリスク」と「変化を起こしたときのメリット」を比較することが大切だと説きます。「何かしないといけない」と考えてばかりいると、「何もしないこと」のメリットを疎かにするリスクが出てきます。

引用文献

ドラッカー「経営者の条件」
訳者 上田惇生
発行 ダイヤモンド社(2006年初版、2011年第19版)

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