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素イデアルの定義と可換環の次元の話

素数を一般化すると素イデアルになる。「一般化ってなんだよ」という話だけど、代数学では「数」という要素を「集合」「関数」っぽくすることなんだ。たぶん。

素イデアルの定義

可換環 (R) のイデアル (p\neq R) は

\[a,\ b\in R,\ ab\in p\ \to\ a\in p\ \mbox{or}\ \ b\in p \]

が成り立つとき、素イデアルという。見れば見るほど素数の定義に近いことがわかりますね。

ここで面白いのは、pというものをあくまでも集合と定義すること。小学校のときに習ったあの素数を、その素数の倍数の集合にしたものを素イデアルというんだね。

つまり整数(整数は可換環の代表だ)の素イデアルは、

{2,4,6,...}

とか

{7,14,21,...}

とかをいうんだ。

可換環を素イデアルで割ると整域になる

素イデアルは代数学で最もおもしろい性質をもっているけど、その始まりはたぶん割って出てくるものが整域というところだね。

つまり R/p は整域となる。

特に零イデアル(0のみのイデアル)が素イデアルというマニアックな状況では、Rそのものが整域となってしまう。

整数環はすべての素イデアルが極大イデアルになっちゃう

整数環では素イデアルはすべて極大になる。つまりすべての素イデアルは、それよりでっかいイデアルに含まれることはない。自分が一番でかいのだ。

※もちろんRは除くよ。Rは自明なイデアルで、極大イデアルと言わない。

可換環を極大イデアルでパカッと割ると、なんと体になってしまう。つまりすべての0以外の元が逆元をもってしまう。

ということは、整数環を素イデアルで割ると体になってしまうんだ。だから整数環はなんとなく体に近い感じがする。

環がどれだけ体に近いか、それは可換環の次元でなんとなくわかる

もともと可換環を勉強する前に群を勉強すると思う。だいたいの本は群、環、体という順序だから。

それで、体が一番すっきりしているイメージがある。すべての元に逆元があるという完全性のせいで。

しかし可換環は逆元がないだけ、不完全性をもっているイメージがある。非常に大雑把にいうとこうなる。

とても不完全 群
すこし不完全 可換環
完全 体

「あなたはどれだけ不完全なの?」とその可換環に言いたくなるけど、その不完全の度合いは次元というものでなんとなく説明される。

体の次元は0である。

そして整数環の次元は1である。

次元が大きくなればそれだけ不完全ということ。次元が0に近づけばそれだけ完全、すなわち体に近づくということです。

整数環という可換環は、限りなく体に近い可換環なのです。これは素イデアルで割っただけで体になってしまうことと深い関係があるんだよ。

可換環の次元

可換環の次元は、素イデアルの鎖の長さで定義する。

0 < p_0 < p_1 < ... < p_n

という素イデアルの列をつくる。ここで不等号は包含関係をしめす。イコールもOKとする。こういう鎖を大量につくって、その長さ(n)の上限をその可換環の次元とする。

※正確にはクルル次元という。

整数環は0イデアルが素イデアルであり、2の倍数も素イデアルであり、2の倍数を含む真のイデアルは存在しないので、

0 < 2

という列ができるね。あるいは

0 < 3
0 < 5
0 < 7

とにかくこんなやつしかないね。だから一次元というわけだ。ここで鎖の長さは素イデアルと素イデアルの間の数ということを思い出してください。

いうまでもなく0.5次元とかいう概念は定義できないので、整数環はある意味、整数環的な性質をもつ可換環のなかで、最も体に近い可換環であるとわかるわけです。次元論は可換環のざっくりとした性質を調べるユニークな数量です。

可換環の次元をもっと掘り下げると、スキームにいきつく

素イデアルというおもしろいイデアルから次元という概念にいきついたけど、昔の天才たちはさらにほってほって掘り下げて、この次元が空間的次元でもあることに気づいたんだ。

複素数係数の多項式の集合(多項式環)は、なんと複素数の空間そのもので、その多項式環の次元と、その空間の次元が一致してしまうのだ。

これは、関数を座標の拡張と考えられる可能性を示していると同時に、そもそも関数ってなんだろうという疑問にもなりますね。

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