ルネサンスとは、古代ギリシア・ローマの古典を再生しようとする思想と運動のこと。ルネサンスは「文芸復興」と訳されることもある。古典の再生を通して、古典に出てくる神に縛られていない自由な人間を目指す。
ルネサンス期は、キリスト教に対するヒューマニズム(人間中心主義)の価値観が広がっていった時代である。
宗教改革とは、教会の腐敗が進んでいたローマ・カトリックへの抵抗運動である。ルターとカルヴァンの運動から広がった。
宗教改革の背景には、免罪符を販売して利益主義に陥っていたカトリック教会の腐敗があった。ルターはキリスト教の原点に立ち返って教会の儀式によらない個人の信仰を重視し、聖書主義を唱えた。
運動 | 思想 |
---|---|
ルネサンス | 人間中心主義 |
宗教改革 | 聖書主義 |
ルネサンスと宗教改革はどちらも背景にカトリックがある。
ルネサンスの始まりは明確に定められないが、ダンテは最初期の人物として知られている。ダンテの「神曲」は地獄や天国の様子を描きながら、人の理性や罪を見つめなおしている。「神曲」の主人公はローマの詩人ウェルギリウスを師としている。
ルネサンスの多くの芸術家は「神曲」におけるウェルギリウスのように、古代ローマ(とギリシャ)の肯定から出発する。ルネサンス期に活躍した芸術家は次の記事を参考。
ルネサンスはヒューマニズムと表裏一体である。ヒューマニズムはもともと古典を研究するという意味を持っていたが、人間が本来持っているいきいきとした精神(を尊重する姿勢や行動)を表すようになった。
ルネサンスを代表する思想家がピコ・デラ・ミランドラである。ピコは、人は自らの自由意志によって、神のような存在にも堕落した動物にもなると説いた。
当時のキリスト教では、人は神の被造物であり、神の意志にしたがって人は生きていると考えられていた。ピコはそうした受動的な人間性を否定し、人は自分の意志にもとづいて考え、行動できるとした。この思想はヨーロッパの近代的な精神になっていった。
宗教改革はキリスト教の改革運動である。当時のローマ・カトリック教会は免罪符(めんざいふ)を販売して利益をあげていた。免罪符とは、罪をゆるされるという商品である。
16世紀になると、教会の腐敗したあり方を批判する思想家が現れた。エラスムス、ルター、カルヴァンである。
エラスムスは「愚神礼讃」を著して教会を批判したが、同じ批判する立場であったルターとは自由意志の考え方が異なり対立していた。
宗教改革の中心はドイツのルターとフランスのカルヴァンであった。
当時の教会は免罪符(贖宥状ともいう)を販売していた。免罪符は買えば罪を贖えるというもの。この教会の特権性への疑問からルターは1517年に「95ヶ条の論題(贖宥状の意義と効果に関する見解)」を発表した。これが宗教改革の大きなきっかけとされる。
ルターの聖書中心主義は、教会によらずとも清書さえあれば個人の信仰は可能であるという主張。ルターは聖書のドイツ語訳を作り民衆に広めた。また司祭と信徒という身分的格差を否定し、すべての信徒は司祭になりうるとした。
教会への疑問から聖書中心主義と万人司祭主義が生まれた。
カルヴァンは神に救われるか救われないかはあらかじめ定められていると考えた。生まれてからいくら良いことをしても、救われるかどうかは最初から決まっている。これを予定説という。
予定説は、職業すらも召命されると主張する。カルヴァンはこの職業召命観を通して神から与えられた職業をまっとうすることの重要性を唱えた。
カルヴァン主義では職業召命観に基いて、職業に励んで商業活動を行う職業人を人間の理想とする。ルネサンスの理想的人物「万能人」とよく比較される。
ルネサンス … 万能人
カルヴァン … 職業人
ドイツの社会学者ウェーバーが著した「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」にはカルヴァン主義が資本主義の発展に貢献したという理論が記されている。
次の各文が正しいか間違っているか判断しなさい。
(1) ピコ・デラ・ミランドラは『人間の尊厳について』で人間の自由意志を肯定した。
(2) ダンテは『愚神礼讃』を著し、当時の腐敗した教会を批判した。
(3) ルネサンスにおける理想的な人物像とは、彫刻作品を残し続けたミケランジェロのように一つの職業を極めた者である。
(4) ルターは聖書中心主義を掲げて腐敗した教会を批判しながらも、アウグスティヌスの『神の国』にある思想をもとに聖職者を介した形式的な信仰は不可欠であるとした。
(5) カルヴァンは職業を召命と考え、キリスト教の立場から営利活動とそれに伴う利益を善とした。
(6) ルネサンスとはギリシア・ローマ時代から続く伝統的風習と文化からの脱却を意味し、ルネサンス期には人間中心的な世界観に基づく文化作品が現れた。
(7) トマス・モアは『ユートピア』において私有財産制のない理想的世界を描いた。
(8) カルヴァンの予定説によると救済される者は予め決まっているが、日々の信仰と勤勉な労働によってその予定を変えられるとした。
(9) ルターとエラスムスはどちらも自由意志を積極的に肯定している。
(1) 正
(2) 誤 (『愚神礼讃』はエラスムスが著し、ダンテは『神曲』を著した)
(3) 誤 (ルネサンスの理想的人物像はあらゆる分野で才能を発揮できる万能人。文中の説明にある者は職業人と呼ばれる)
(4) 誤 (ルターはアウグスティヌスでなくパウロの信仰義認説を継承し、形式的行いでなく信仰によってのみ義とされると説いた)
(5) 正
(6) 誤 (ルネサンスとは古代ギリシア・ローマ文化の復興であり、脱却ではない。後半は正しい)
(7) 正
(8) 誤 (カルヴァンの予定説では信仰や勤勉によっても自身の予定は変えられない)
(9) 誤 (エラスムスは自由意志を肯定しているが、ルターはかなり否定的である)