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連載 メディアと広告のニヒリズム

「させていただく」症候群:自尊心と自己満足の低下が謙譲語を活発にさせる

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日本に不気味な文化が広がっている。その一つが「させていただく」症候群で、生産性の低下にたぶんつながっている。メディアがよりマニアックになって卑屈を良しとするのは、経済が衰退を免れない暗示だと思う。

壊れた尊敬語と謙譲語を多用するのは自己満足の低下、つまり自信のないあらわれで、それは国際競争力の低下とテレビの文化が背景にある。

この記事は個人の主観にもとづくので学術的な価値はまったくない。忙しい人は読まないで。

国際競争力の低下

私は大学院にいたとき、世界中のメディアをクローリングして国別の国際競争力を計測した。「ニッポンすごい番組」が披露しているほど日本は目立っていなかった。

ゲームはまだ権威があるものの、フォートナイトのユーザー数が 2 億人を超えたことからわかるように競争力は着実に落ちている。

俳優とか音楽家は理解してくれると思うけど、いわゆるポップカルチャーと映画・ドラマで日本人はほぼまったく活躍していない。海外に進出したい俳優はたぶん一番このことをわかっている。ゲームとアニメはメディアの王道でなく、メディアの中心は昔から今まで変わらず映画だから、この国の得意とするアニメをゴリ押しして文化大国になることは限界がある。

文化大国は今も昔もアメリカとフランス。モエヘネシールイヴィトンの時価総額は今月時点でトヨタ自動車より上…。

私は何年もアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、インドのメディアを毎日チェックしているけど、日本はほとんど話題にならない。たまに「日本の道路はどうしてきれいか?」のようなエッセイと任天堂のゲーム紹介があるだけ。各国の主要メディアで出てくるのはアメリカ、中国、イギリス、EU の 4 つ。

中国に抜かれて、中国が大国化していることは、たぶん日本人の心に大きく影響している。大学や大学院にいた頃はいろいろな人と世界史の話をよくしたけど、世界史をきちんとわかっている人は「中国は数千年前からずっと大国で、なるべくして大国になっただけ」というのがだいたいの意見だった。

ただ、ほとんどの人はこの記事も「中国はなるべくして大国になった」という意見も我慢ができない。国民総生産で三位になった事実はおそらく想像以上に効いている。なぜなら、それがおそらく日本のアイデンティティーだったから。生産性は、一部の期間を除いていつも先進国下位のほうにあるから、多くの人は意図して生産性の国別ランキングを無視している。経済規模というたった一つの指標をもとに、なんとなく自分たちはすごいというプライドをもっていた。が、それはこの国の人口がドイツやフランスよりたまたま多かっただけの話。

実際は、日経平均株価はいまだに 90 年代のピークを超えないし、一方でダウ平均株価は常に高値を更新している。その「先進国と中国から放置されている感じ」があるからこそ、人はどんどん卑屈になり、「させていただく」症候群になっているような気がする。

テレビの影響

不思議なことに日本は一つの番組にたくさんのタレントと芸人が登場する。海外の番組を見ていると、そういう番組もあることはあるけど、いわゆるバラエティ番組のようなものは主流でない。

最近の芸人は上下関係を気にしているのか、「させていただく」をよく口にする。少し年上の人が「させていただく」を言ったら、その下はなんとなく「させていただく」を使うしかないと思っている、のかも。

芸人を中心に、アナウンサーや企業の広報者も「させていただく」を使う。悪貨は良貨を駆逐するので、みんなが「させていただく」を言うようになる。私はまだ高齢者どころか中年者にもなっていないけど、よく行く理容室の店主(高齢者)が「最近の芸人はよく間違った言葉づかいをするねえ。どいつもこいつもさせていただくってさあ、なんなんだよまったく。どうかしてるよねえ」と言ったとき、とても共感した。

このサービスをご利用なさっていただくお客様には感謝のお気持ちでいっぱいです。弊社もみなさまにサービスを届けさせていただいていることにまことに感謝しております…

と慇懃無礼に言う広報者がいるけど、なぜ「サービスを届けさせていただく」なのか?「サービスをする」でいいじゃないか。理容室の店主はそう言いたいわけです。

暇をもてあましてテレビを見る人は、こうした怪しい謙譲語にさらされて、自分も仕事やコミュニケーションの場で不気味な敬語を使うようになるのかもしれない。以前、敬語不経済は会議を通して労働生産性を下げる:過剰な敬語と「させていただきます症候群」は今すぐやめようという記事を書きましたが、今後も「させていただく症候群」は広がって、生産性はたぶん落ちていく。

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