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「お伺いします」と「お伺いいたします」の使いわけ~「二重敬語は間違い」は間違い

このサイトでよく書いているように、言葉とその使い方は「正しさ」よりも「無難かどうか」という基準で考えます。下の三つは無難でしょうか?

  • お伺いします
  • お伺いいたします
  • お伺いさせていただきます

周りにいる 10 人に「一番無難な文はどれか?」とたずねたところ

  • お伺いします … 6人
  • お伺いいたします … 4人
  • お伺いさせていただきます … 0人

という結果になりました。

「お伺いします」は二重敬語

以上の前置きをふまえて、「お伺いします」について考えます。

お伺いします
=お+伺い+ます

「お」は「御」であり、相手を敬う尊敬語。「伺う」は「行く」を表す謙譲語(自分の立場を下げるときに使う言葉)。尊敬語も謙譲語も敬語という大きなカテゴリーに属し、「お伺いします」は尊敬語+謙譲語の二重敬語と考えられます。

「お伺いします」「お伺い致します」「お伺いさせて頂きます」、仕事をしているとメールでのやり取りで上記3つの使われ方を良く目にしますが、正しい敬語の使い方としては「お伺いします」の1つだけです。残りの「お伺い致します」「お伺いさせて頂きます」は2つとも誤った敬語の使い方をしています。いわゆる「二重敬語」になってしまっているためです。
(中略)
お勉強的に正しい日本語はどれか、と聞かれると「お伺いします」が正しく、その他の「お伺い致します」「お伺いさせて頂きます」は二重敬語なので正しくはありません。
出典:「お伺いします」「お伺いいたします」「お伺いさせていただきます」どれが正しい敬語?意味と使い方は?-#mayonez

引用した記事はとてもわかりやすく敬語を解説していますが、二重敬語という点で三つの「伺います」の例文を比べることは基本的にできません。すべて二重敬語にあたるからです。二重敬語を否定すると「お」のない「伺います」だけが正しい日本語になりますが、お抜き言葉を使うのはとても勇気がいります。

「ご健勝」の使い方と例文:手紙やメールを長くするお決まりの文言集

「二重敬語だから間違い」は間違い

「せさせ給ふ」など、古語において二重敬語は高頻度で使われています。その歴史的な名残りもあって敬語を重ねる現代人が多いわけです。文法が慣例によってねじ曲げられることからも

そのひとつが「二重敬語」と呼ばれるものです。 二重敬語とは、ひとつの単語について、同じ種類の敬語を二重に使った間違いをいいます。
出典:いつの間にか使っている二重敬語に注意-敬語・ビジネスマナー講座

と論じることは難しい。「二重敬語は間違い」「国語の授業で二重敬語は間違いと習う」という説明がインターネットに氾濫していますが、それは間違いです。

「お伺いいたします」が不自然である理由

「お伺いいたします」は使ってもまったく問題ない言葉だと個人的に思いますが、上記の執筆者のように、一部の人は違和感を持っています。それは

  • 伺い
  • いたし

の二つが謙譲語だからです。古語でも現代語でも、尊敬語を重ねることは比較的自然に見うけられますが、謙譲語の重複はあまり見ない。謙譲語はへりくだって使う言葉であり、重ねると卑屈すぎて嫌味な印象が出るからでしょう。卑屈と傲慢は表裏一体です。

尊敬語は重ねてもいいが、謙譲語は(嫌味にならないように)重ねないという暗黙のルールが、「お伺いいたします」はダメという話を生んでいる気がします。

参考:そもそも尊敬語と謙譲語ってどう違うの?敬語の使い分けをわかりやすく解説します

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