ゼロトゥワン(ピーター・ティール)の書評:資本主義の独占と利益を考える
「ゼロトゥワン」はペイパル創業者のピーター・ティールの本です。本書(ゼロ・トゥ・ワン「君はゼロから何を生み出せるか」(NHK出版、ブレイク・マスターズ著、瀧本哲史序文、関美和訳、2014)、以下「本書」という)はペイパルやさまざまな会社の事例をもとに、会社がどのように成長するか、あるいは破綻するかを説明しています。
これから起業する人はもちろん、すでに起業している人を含む、すべての社会人に必須の知識を与えてくれる本です。
誰のための本か?
- 競争に苦しんでいる人
- 組織を作りたいと思っている人
- 組織を引っ張りたいと思っている人
この記事では本書で最も重要なテーマである「独占と利益」に焦点を当てることにします。
独占
本書はずばり次のように結論づけています。しかも最初に述べています。
- 会社が生き残るには、独占するしかない。
私たちは資本主義と競争を表裏一体に考えがちですが、それは違います。資本主義の本質は独占です。スタンダード・オイルに始まり、ほぼすべての産業で独占的な会社が生まれています。そしてそれらは自分たちが独占企業ではないと巧妙に主張することで、巨大な資本を維持しています。これが資本主義の本質です。
独占企業は実質的に競争しておらず、次の四点から特徴づけられます。
- プロプライエタリ・テクノロジー
- ネットワーク効果
- 規模の経済
- ブランディング
プロプライエタリ・テクノロジーは製品のコア技術です。本書p75-76で説明しているように、独占企業になるためには他の企業の何倍も優れた技術を持っていなければいけない。
ネットワーク効果とは、行列のできるラーメン屋のことです。人がいるところには人が集まり、人がいないところには誰もこないという原理を大雑把にいうと、ネットワーク効果といいます。会社は多かれ少なかれネットワーク効果を使って独占的地位を維持しています。フェイスブックが代表例です。
規模の経済は、規模が大きくなればなるほど優位になっていくというものです。これはフィットネスクラブの経営にはあまり通用しません。フィットネスクラブは規模を大きくしても、固定費がそれだけ比例して増えるためです。
外食産業に圧倒的な独占企業が存在していないことも、外食が今のところ規模の経済が効きにくいことに関係しているといえます(ここは個人的な主張です)。
ブランディングはアップルなどの会社を見ればわかります。アップル的な製品を作ることはできますが、アップルになることはできません。ブランディングとは、その会社でしかできない抽象的なイメージ戦略です。
利益
独占は、すべての成功企業の条件なのだ。
幸福な企業はみな違っている。それぞれが独自の問題を解決することで、独占を勝ち取っている。不幸な企業はみな同じだ。彼らは競争から抜け出せずにいる。
本書「幸福な企業はみなそれぞれに違う」
p57
上に引用した文は本書で最も重要な主張です。利益は独占からやってくる。そして独占からしかやってこない。独占しない限り、その会社はずっと苦しみつづけることになる。
独占への道
ランチェスター戦略では新興企業が独占企業を倒すということはほとんど不可能であると考えますが、ティールも同様の思想を持っており、新興企業が独占企業に挑むことはとても危険であると認識しています。
ではどうすれば会社は独占的地位を築けるのでしょうか?
- 小さく始める
- 少しずつ規模を広げる
- 終盤に勝つ
フェイスブックはいきなり世界を目指したわけではなく、最初はクラスメートの名前を集めるだけでした。最初は小さく始めることが秘訣で、その小さい世界でトップになることで、最初の独占的地位を築きます。
ペイパルも苦労の末、イーベイのオークションに集中することでニッチトップになり、少しずつ客を増やしていきました。
井の中の蛙ということわざがあります。これは狭い世界でナンバーワンになって偉そうにしている、イメージの悪い慣用句ですが、会社が成長するためにはまず井の中の蛙になることが大切です。
狭い世界で一位になった段階で、次のニッチを探していきます。こうして少しずつビジネスを広げていくわけですが、このスピード感と順序はとても気をつかうところです。
そして終盤を制すること。新しい技術が生まれたとき、先行者利益を狙って新興企業がたくさん生まれます。しかしそれらの大半はつぶれていきます。本書は次のように言います。
最後の参入者になる方がはるかにいい
特定の市場でいちばん最後に大きく発展して、その後何年、何十年と独占的利益を享受する方がいい
勝ちたければ「何よりも先に終盤を学べ」
本書「幸福な企業はみなそれぞれに違う」
p87
参考
ゼロ・トゥ・ワン「君はゼロから何を生み出せるか」(NHK出版、ブレイク・マスターズ著、瀧本哲史序文、関美和訳、2014)
学校と先生が教えない資本主義と独占