日本はすでに後進国になっているが、ほとんどの人は気づいていない。自分たちは世界第二位の国だと思っている人もまだいる。今回はそう感じた理由をあげて、この国の将来を考えてみる。
この国を後進国と表現するのは私が最初かもしれない。だから一部の読者は読んでいる途中でイライラして、書き手の私を外国人と想像するだろう。しかし私は少なくとも 8 世代さかのぼっても日本人以外の血が混ざっていない純血日本人だ。防衛大臣を輩出した「まともな家系」だから、愛国心のある人は私を責められない。
先進国でないと確信したのは今から 6 年前だった。これから述べることは、日本が後進国になった理由というよりは、そうなった社会的な現象を私の視点で切りとったものにすぎない。学術的に読む価値はまったくない。
つけ加えると、私は現象と理由は区別がつかないと考えている。社会はいつも変化するため、卵とニワトリのどちらが先に生まれたかという議論は鼻くそほどの価値もない。
キズナアイで書いたように、私は女子高校生しか登場しない深夜アニメと怠け者が活躍する物語に生理的嫌悪感をもっている。日本の倒錯は源氏物語から続いているから、治る可能性はない。
努力しない者が世界を救うという話は、努力する人にとって不毛に感じる。自分の価値観を台なしにしているから。逆に言えば、怠け者が文化的意義をもつ社会は、努力を肯定しない人が増殖していることを暗示する。そして健全な先進国はその道を必ず避ける。
私の黒歴史は 2013 年にあるソーシャルゲームの開発会社の株を買ったことだ。私はある証券会社のレポートを毎週読んで、ある人物のレーティングに内心ずっと怒っていた。その大筋はこうだ。
ソーシャルゲームの課金はスロットとまったく同じなので、課金ゲームを主軸とする会社の適正 PER は 〇〇 だ…
今考えるとまったくその通りで、ソーシャル課金ゲームは人から思考を奪う自動販売機にすぎない。しかしその市場は 1 兆円(純粋な課金ゲーム以外の売上も含まれてしまうから、この数字を単に扱うことはできない)を超えている。
オンラインプラットフォーム市場は1兆2361億円に達し、国内ゲーム市場全体の約7割を占めている。特に、オンラインプラットフォーム市場の大半を占めるゲームアプリ市場は、プラス成長が持続し、1兆1660億円に伸長。
【ファミ通調査】2018年の国内ゲームアプリ市場は1兆1660億円に伸長 国内クラウドゲーム市場は2022年に100億円突破の見込み 『ファミ通ゲーム白書2019』発刊
ポチポチ押すだけのゲームに夢中の人は、考える余裕がない人だ。考える余裕のない人が増えると、その分だけ国全体の知的水準が下がり、後進国への道を進むことになる。
もっと深い疑問がある。国全体が貧しくなっているのに、なぜソーシャルゲームの市場が成長しているのか? 大衆はどこかで出費を削っているはずだ。もしそれが子育てなら、上のデータは二重の意味で後進国化を表している。
GDP そのものの値は先進国/後進国の区別とあまり関係しない。なぜなら人口が多い国はそれだけ GDP が大きくなるから。
私は以前 GDP の話で 50 歳くらいの人を怒らせたことがある。彼は年相応に愛国心があり、日本はいまだに世界第二位の国だと考えていた。中国はとっくに日本を超えているのにかかわらず、彼の脳内において日本はまだ第二位だった。私が一人あたり GDP で OECD の下位であることを言うと、彼は途端に不機嫌になった。
2016年時点で38,440ドルとなった日本の一人当たり名目GDPに至っては、中国の約4.4倍の水準にあるが、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では93年の2位から25位にまで低下している。
GDPは6年連続増加しても世界シェアは低下する日本 エコノミスト永濱氏が解説
一人あたりの GDP は先進国/後進国の定義にならない。重要なポイントは数字でなく、もっと精神的なところにある。つまり多くのメディアが一人あたり GDP という本質を無視して、世界第三位という順位を強調することだ。貧乏国になった現実を無視して、中国に抜かれる前の過去に引きずられている理由は一つしかない。後進国になりつつあるという無意識の自覚が市民全体にあること。
貧乏には二種類ある。物質的な貧乏と精神的な貧乏。現時点で日本はどちらも手にしている。
一時期太宰治が流行した。ある芸人と文学賞が背景にあったとはいえ、太宰治はそれ以前からミニブームをくりかえして物議をかもしている。
太宰治の「人間失格」と紫式部の「源氏物語」という腐敗した純文学に思うことのくりかえしになってしまうが、人間失格という作品はこの世で最も不愉快な悪臭を放っているように私は感じる。
プライドが高く、堕落と腐敗に負けている自分を肯定し、その屈辱を文学的な壁で守っている。それが人間失格の主人公である。言葉に神秘的な力があると感じるのは、ルネサンスのような明快さをこれまで理解できなかった凡人しかいない。太宰治は幼稚な人生をそれらしい言葉で語ったならず者で、文化的な汚物をまき散らしたことにかけて不名誉な功績をもつ。
太宰治が流行するのは、理性が堕落して社会が後進しているから。それ以上でもそれ以下でもない。
子どもの夢ランキングに公務員が出てくることは話題になっていた。
中学生くらいになると公務員になりたいと思う人が増えるようだ。そして最近は YouTuber になりたいという人も増えている。
日本FP協会が毎年調査する小学生の「将来なりたい職業」。2017年の調査では、「ユーチューバー」が男子6位にランクインしたのである。前回14位からの急上昇で、トップ10に入ったのも初のようだ。
ユーチューバーが「将来の夢」になるほど若年層に人気の理由
YouTuber になるという夢は悪くない。悪いのはそれが統計的な説得力をもつことだ。もっと別の希望があるのに、なぜ YouTuber なのか? 政治家、医者、弁護士、会社経営、科学者、社会活動家、スポーツ選手、エンジニア…という無数の可能性を押しのけて YouTuber が統計の上位に食いこむことには理由がある。
それは家庭が道徳教育を放棄しているから。「いや、うちはきちんと教育している。子どもが勝手に YouTube を見るのだ!」と言いたい親もたぶんいると思う。しかしそれは親のエゴでしかない。統計にあらわれる傾向は社会の未来を示唆する。それはもちろん、この国の教育水準が落ちて先進国から脱落するという未来だ。
少子化が進むと社会は著しく劣化する。劣化しない条件は一つしかない。外国資本がその国に侵入し、かつ国が外需に依存すること。グローバルの競争にさらされると、少子化だろうがなんだろうが人は努力する。しかし日本は不思議なことに内需に依存している。
内需型の経済で少子化が進むとどうなるか? それは団塊世代に聞けばいい。これを読んでいる団塊世代、特に東大出身者はきっとこう考えている。
自分たちは 1 学年 250 万人から選ばれた 3,000 人の 1 人だ。それが今はなんだ、母数が 90 万人じゃないか!どれだけ簡単に入学できるんだ!
私のときは 130 万人だったから、それでも団塊世代の半分。東大に価値がない理由は受験に厳しい競争がないから。つまり 3,000 / 900,000 という競争はそもそも競争になっていない。そんな競争は、人生をかけて国から脱出してグリーンカードを手にしようともがく人たちの競争から比べれば、鼻くそにも劣る。
少子化は社会保障を破壊するだけでなく、教育競争の水準劣化を通して日本を後進させる。
社会が滅亡するとき、宗教とセミナーが流行する。豊かな時代の大衆はそこそこの自己肯定感に浸って生活するため、必然的に宗教と距離を置く。平安末期に末法思想が流行ったが、それは大衆が著しい貧乏にいたからだ。
貧しい時代はいつも宗教と暴力がさかんになるが、警察が最高の権力をもっている現代は宗教の出番である。昔はビラを配っていたが、今は自己啓発本を〇〇堂に置いて、電車の窓にベタッと広告を貼ればいい。
宗教、ネットワークビジネス、セミナー、自己啓発の裏にはおびただしい数の不幸がある。
あなたが経験した精神的苦痛をやわらげるために、それらしい動詞と形容詞を混ぜて言語的な薬品を作る。そしてあなたに売る。あなたが手に入れるものはなにか? 一時的な優しさとぬくもりを手にするために、怪しい水晶と 50 万円を交換する必要があるだろうか?
そのへんの本屋に行けば、鼻くそをほじりながら書かれた自己啓発本がたくさん見つかる。鼻くその分だけ社会は後進しているとわかる。
ヤフー、楽天、リクルートの共通点は、日本で商売し独自のプラットフォームを築いているが、世界では成功していないことだ。ツイッターは世界で流行しすでに衰退しているが、日本では Facebook 以上に使われている。
日本と世界で流行するプラットフォームは異なる。日本と世界には想像以上に文化的な壁があるらしい。私は個人的に、この壁の本質は深夜アニメのような閉鎖的・自虐的・倒錯的文化と「させていただきます」を多用するような敬語過剰にあると考えている。
日本で成功したプラットフォームはほぼ必ず世界で失敗する。例外はソニーと任天堂だが、今は Apple と Microsoft と Google がその市場を間接的に破壊している。
プラットフォームは道具をもたない製造業者で、ソフトウェアという資本から金を吸いつづける自動販売機である。プラットフォームはそれ自体の売上よりも大きな影響力をもつ。なぜか? メディアの機能をもっているからだ。
プラットフォームはメディアとして機能し、周辺の市場を支配する。アメリカのウォーレン議員と弁護士たちを苦しめているのは、プラットフォームの支配に独占禁止法が適用できないことだ。さらに難しいのは、その支配が国境を簡単に超えること。これについてはドイツとフランスがいくつか対処法を見つけたようだ。
現在、次のようなプラットフォームを所有する日本企業はない。
日本人が誇りをもてる時価総額をふりかえると、日本株全体の時価総額は近年だいたい 600 兆円である。この数字にホコリをもてない理由は
(金額は 2019 年の概算)
の時価総額を合計するとわかる。そして今も日本は優秀な自動販売機をもっていない。