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日産カルロス・ゴーン事件のざっくりまとめ:逮捕の理由と検察のやり方から日本の司法制度を考える

カルロス・ゴーン氏の逃亡はとても衝撃的なニュースでした。本日(2020年1月8日)、ゴーン氏はレバノンで記者会見をしました。今回はゴーン氏と日本の司法制度について、個人的に思うことをざっくり記します。

この記事は正当な評論家によって書かれた社説ではないので、きちんとした解説や主張を知りたい人は検索画面に戻ってください。

カルロス・ゴーン氏の逮捕まとめ

ゴーン氏は2018年〜2019年に4回も逮捕されています。

カルロス・ゴーンの逮捕

2018年11月19日 金融商品取引法違反
2011年〜2015年における役員報酬の過小報告(約50億円不記載)。このときグレッグ・ケリー氏も逮捕されている。

2018年12月10日 金融商品取引法違反
2016年〜2018年における役員報酬の過少申告(約40億円不記載)。

2018年12月21日 会社法違反(特別背任)
自身の通貨取引の損失(約18.5億円の評価損)を日産に付け替えた。

2019年4月4日 会社法違反(特別背任)
オマーンの販売代理店に日産の資金を不正送金(約5億6300万円)。

ゴーン氏の事件が複雑でわかりにくいのは、逮捕の根拠になった不正がたくさんあるからです。金融商品取引法と会社法の違反が2回ずつあります。

それぞれの逮捕を少しずつ分析する

1度目の逮捕 2018年11月19日

2011年3月期から15年3月期までの計5年間の役員報酬額が実際には99億8000万円だったのに、計49億8700万円と記載していたという。
ゴーン追放はクーデターか…日産内で囁かれる「逮捕の深層」 - 現代ビジネス

100億円の報酬を50億円と申告した。これ自体は(言い方に問題はあるが)ただの脱税で、日産の損害とあまり関係ないように感じる人もいるかも知れない。

2度目の逮捕 2018年12月10日

東京地検は10日、2010~14年度の報酬をめぐり、約50億円の過少記載があったとして先月19日に逮捕されていたゴーン容疑者を、直近3年間で約40億円の過少記載もあったとして再逮捕。
ゴーン容疑者を起訴、報酬40億円過少記載でも再逮捕 - AFPBB

1度目と2度目の過少申告を合わせると約90億円の不記載になります。日本ではトップ経営者の高額所得が批判されやすく、東洋経済の定番ランキング「年収1億円超」の上場企業役員530人リスト(東洋経済・2017年)でも、あえてゴーン氏をピックアップしていました。ゴーン氏が逮捕前から「高額所得の外国人経営者に批判がましい日本の空気」にうんざりしていた可能性はあるでしょう。

3度目の逮捕 2018年12月21日

ゴーン氏の事件で一番わかりにくいところが3度目の逮捕。メディアは「ゴーン氏は通貨取引の損失を日産に押しつけた」といったニュアンスで報道していましたが、一部の評論家は十分な証拠がないと疑っています。

事実は、実損がなかったどころか、形式上も実質上も日産には一切の損失が認識できなかったのである。
日産の損失はゼロ、ゴーン氏は特別背任にあたらない - JBpress

ただ、事件の闇を知っているはずの日産元秘書室長は内部通報者で、この人は犯罪をやってしまったという罪悪感に耐えられなくなったと私たちは思ってしまう。

ちなみに、この時の秘書室長は、今回の日産カルロス・ゴーン事件の内部通報者で、東京地検特捜部と司法取引で合意することにより刑事処分の減免を受けている。
日産の損失はゼロ、ゴーン氏は特別背任にあたらない - JBpress

新聞が書かない これが日産ゴーン元会長“無実”の証拠だ!といった記事が出てくるように、日産の被った損失額が明確にわからない。問題の契約も取締役会の承認を経ており、ゴーン氏を一方的に逮捕する根拠がちょっと不透明です。もちろん当事者にしかわからないことや前後の文脈によるので、「ゴーン氏の逮捕は不当だ」ということはできません。

4度目の逮捕 2019年4月4日

カルロス・ゴーン氏の事件で日本の司法制度に批判が集まっていますが、それはこの4度目の逮捕あたりからです。

弘中弁護士は会見で、検察にとって再逮捕には「屈服させる」「口封じ」「弁護妨害」の3つの意味があると指摘。証拠隠滅や逃亡の恐れがないとして保釈されたのに逮捕したのは「合理性も必要性もなく、暴挙と言わざるを得ない」と批判した。
今回の逮捕で公判準備のための資料や、ゴーン前会長の妻の携帯電話やパスポートも押収されたことを明かし、「弁護権の侵害だ」と抗議した。海外メディアから「今回の逮捕は人質司法だとはっきり言えるか」と問われると、「人質司法だと言えると思います」と答えた。
カルロス・ゴーン被告の4度目逮捕に、弘中惇一郎弁護士が怒りの会見。「文明国としてあってはならない暴挙」 - ハフポスト

4度目の逮捕でおなじみ東京地検特捜部の横暴さが批判されました。日本の司法制度はさまざまな問題を抱えていますが、中でも特捜部は悪名高い権力者と認識されているでしょう。

非常にざっくりとした、そして多少歪んだ解説になりますが、4度目の逮捕が口封じと批判される理由はこうです。

まず3度目の逮捕後、ゴーン氏は保釈されていました。そして4月3日にツイッターのアカウントを開設し、「4月11日に記者会見を開いて真実を話す」といったツイートをしました。今でも残っています。

翌日4月4日、東京地検特捜部はまるでゴーン氏のツイッター活動を阻止するような形で逮捕しました。しかしいまだに逮捕の根拠は不透明で、マネーロンダリングと報道するメディアのあり方も批判されています。そして「ゴーン再逮捕は東京地検特捜部の口封じ」三井環元大阪高検部長が激白などからわかるように、特捜部は都合の悪い状況を阻止するために強引な逮捕も辞さない体質です。

3度目の逮捕から「これって本当に先進国のやり方かな」という疑問が国内に起きていましたが、再逮捕という悪質なやり方によってゴーン氏に同情するような雰囲気が出てきた。これがゴーン氏の事件をよりわかりにくくしています。

個人的に思うこと

カルロス・ゴーン氏は目にあまる横暴な方法で、どうにか都合よく資産を増やしたかったのかもしれない。これだけ大規模な不正(とみえる事実)が露呈したこと、日産がクーデターに見えるようなやり方でゴーン氏の責任を追及したことを考えると、やはり経営が腐りかけていたと感じてしまう。

しかし日産の損失に直接関する2つの逮捕、つまり3度目と4度目の逮捕は焦点をゴーン氏から司法制度にずらしてしまった。

検察がもっと正当な手続きをしていれば、ゴーン氏はレバノンに逃亡しなかったかもしれない。そしてゴーン氏に味方するような世論が一部で生まれているのは、司法制度に対するもともとあった疑問やいらだちが爆発しただけなのかもしれない。

起訴されたら終わりとか、痴漢冤罪事件とか、凶悪犯罪者を野放しにする制度とか。そしてゴーン氏の事件では、弁護士の権限が著しく侵害されているような印象を受けました。

パリに拠点を置くフランス人の刑事弁護士であるイヴ・レベルキエ氏は、フランスでは「親類、そして弁護士に自身の逮捕を連絡することがまず許される。通常のケースでは、勾留されるのは24時間または48時間。共謀の嫌疑をかけられているのなら96時間だ」と説明する。
「(フランスであれば)弁護士は、ゴーン氏が勾留される前に同氏と30分間話すことができただろうし、尋問の際にはいつでも立ち会えただろう。ただし、ゴーン氏と話すことはできない。別の罪があったとしても、日本のように勾留の期間が延長されることはない」
「日本の問題は勾留期間の長さ以上にその状態にある。この期間中、弁護士の役割はあまりにも限定的だ」と日仏司法制度の比較を専門とする白取祐司弁護士は言う。
拘置所に入った「ゴーン」が過ごす異常な日常 - 東洋経済

弁護士なのに弁護活動が著しく制限されていると専門家も主張しています。例えばアメリカでは警察の取り調べ中に弁護士が登場しますが、日本では(不可能でないが)なかなか難しい。結局、日本は検察や警察の権限が強すぎるのかもしれない。その横暴な印象が、おそらく犯罪レベルのことをやっていたゴーン氏への微妙な同情になっています。

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