不平等経済と格差社会〜スティグリッツ教授のこれから始まる「新しい世界経済」の教科書を読む

本書はノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授が執筆した本で、豊富なデータと図表をもとにアメリカを含む世界経済について説いています。

テーマは一貫して、一つ一つの説明はわかりやすい。一読した限りでは全体を理解することは難しいので、何度か読まないと頭に入ってこないところもあります。

メインテーマ:不平等な経済

本書のメインテーマは不平等な経済です。所得と資産の格差が拡大し、社会の不満が大きくなっていることに焦点を当てています。本書はその原因を丁寧に紐解きつつ、問題解決の提案まで踏みこんでいます。

  • 上位1%の富裕層は収入と資産を増やしている
  • 下位99%の資産はほとんど増えていない
  • 中間層の所得は下がった
  • 経済の金融化が進んだ
  • 教育と研究の長期的投資が減っている
  • 企業の短期主義が横行している

参考:p26、30など

以上がアメリカで起きている変化です。

テーマ1:大企業(特に金融機関)の取締役の所得と資産が増大し、その他は変わらない

本書の第二章で、企業の短期主義と役員報酬の高騰を説明しています。ざっくり要約すると次のようになるでしょう。間違いや誤った解釈があれば、当サイトまでご連絡ください。

企業は株価を上げようとします。企業は役員などに株価連動型の報酬を与えますが、インセンティブは短期主義的に機能し、経営者は短期的な利益を目指すようになる。こうして会社は人員整理や合併をくりかえし、一般労働者の雇用を不安定にした。一方で役員報酬は増加し、格差の拡大につながった…。経営が「株主中心」にまわり始めたことを本書は株主革命と呼んでいる。

CEOの報酬をじっくり見ると、報酬と実績のあいだに関連はほとんどないことがわかる。企業実績が上がれば報酬も上がるが、実績が下がっても報酬は上がっている。
本書p93より引用

決定的な分析は会社の投資が減っていること。これは本書に限らず、すでに多くのメディアが伝えていますね。本書p95のグラフは、会社がもはや未来志向でないことを物語っています。

借り入れと投資の関係が劇的に変化していることがわかった…(途中略)企業収益は最高を記録しているが、投資は増えていない。かつて金融は企業に資金をもたらすメカニズムだったのに、今では企業から資金をひきだすために機能している。
本書p94より引用

このセクションで、ここからは私の持論になります。私はスティグリッツ教授に全面的に同意しているわけでも、崇拝しているわけでもありません。経済も社会も複雑で、それぞれが独自の文脈で語ることは免れないからです。スティグリッツ教授は「富裕層に対する減税が投資や成長をうながしたという証拠はない(p96)」と釘を刺しています。確かにそうかもしれない。

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直感でしか説明できない私に説得力はありませんが、富裕層の税率を上げることは社会の不均衡を是正するでしょうか? 何をしている富裕層なのか、どうやって富裕層になったのか、という問題まで踏みこむ必要があるような気もしますが、どうでしょうか?

私は個人的に、税率が業種によって変わらないことに違和感を覚えます。これは一般論からずれるので、専門家からは激しく糾弾されるアイデアでしょう。しかし私にはどうしても、製造業と農業、情報とインターネット、そして金融と不動産の3つが同じ税率であることが理解できないのです。何をやっている富裕層なのか。大規模な設備投資というハイリスクをおかした上で成り上がった富裕層なのか。それとも世界有数の投資銀行の経営者になった上での富裕層なのか。

一から工場を作って立身出世した富裕層に高い税率を課すことは、将来のアメリカン・ドリームを夢見る青年にどう映るでしょうか? 税金を課す政策が回り回って自分の経済を苦しめることはないでしょうか。

テーマ2:労働者の権利を無視して会社は成長する

本書第三章は会社と労働者という大きな対立をあらためて論じています。言うまでもなく、経営者の利益と労働者の利益はあまり一致しない。一致させるためにストック・オプションなどの手法を駆使するわけですが、そうした小手先の努力が短期主義につながり、やがてリストラや合併の連続をくりかえして労働者にはねかえっていることは、前章で説明されています(やや語弊もありますが、概略はこのような感じ)。

労働組合の力が弱体化したことで、会社は労働者を長期的な資産でなく、あたかも流動的な負債のように扱うようになった。さらにアメリカでは労働基準が低く、人種や男女間の格差も解消できるとはいえない。p128でポイントがまとまっているように、特に人種差別が雇用差別になり、格差拡大につながっています。

以前このサイトでアファーマティブ・アクションを扱い、多くの人に読まれました。アファーマティブ・アクションとポリティカル・コレクトネス(PC)は白人中間層が怒っている現実を浮き彫りにしています。しかし実際は、非白人の貧困層は親から子に受け継がれてしまうという非常に深刻な問題があるのです。

人種差別、男女の雇用機会といった様々な問題の根っこには、会社が労働者の権利を無視しているという事実があります。日本に比べてアメリカは生産性が高く、労働者に適正な報酬を払っていると思う人もいるでしょうが、現実は簡単に論じられない。スティグリッツ教授はp146の終わりで、男女の賃金を同一にすることがいかに重要かを説明しています。

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テーマ3:どうすればいいか?解決策は?

スティグリッツ教授はシステムを変えることが重要だといいます。資本主義が腐っているとは言っていません。共産主義よりも資本主義のほうが人々の利益を増やすことは、30年前に明らかになっており、後は資本主義をどのように修正していくか、資本主義を成立させている細かいシステムをどう変えていくかにかかっている。

システムの問題のうち、スティグリッツ教授が特に問題視しているのは金融機関のシステム、医療と社会保障、労働者の待遇と機会です。

  • 金融機関のシステム
  • 医療と社会保障
  • 労働者の待遇と機会

スティグリッツ教授が最も批判している相手は金融機関です。リーマン・ショックを引き起こしたこと、テクノロジーの発展に見合わない利益と報酬を得ていること、大きくてつぶせない大企業があること。

金融機関はリーマン・ショックが起こってもなお「ロンドンの鯨」といった事件をくりかえして経済を混乱させている。スティグリッツ教授は本書のかなりの部分で金融機関の搾取構造を批判しています。経済が金融化しすぎて、実体経済の発展と直接関係ないところで富裕層がさらに上位の富裕層になるという構図がある。

医療と社会保障にも批判的です。これは私自身、知り合いのアメリカ人から直接聞いたので、アメリカの医療費が日本に比べてかなり高いことはわかっていました。上位層以外の層にとって病気や骨折は、自身の資産をかなり失うリスクだそうです。話をしてくれた人は、保険制度もめちゃくちゃだと怒っていましたね。ここは保険対象、ここは保険対象外という項目がたくさんあり、費用の予想がつかないそう。

終わりに

本書の終わりに「アメリカ型グローバリズムをゆるすな」という章がもうけられています。アメリカ国内の労働所得のシェアが下位99%で減っているというグラフがあり、あらためて不平等経済のデータを知ることができます。

ここで私たちは何を考えるべきでしょうか? 日本はアメリカと違う。はい、おしまい。で終わっていいでしょうか?

日本は不平等が拡大していますが、厚生労働省のデータによると、日本は先進国で高い部類に入ります。次のリンクは厚生労働省のpdfファイルです。

平成24年版厚生労働白書 -社会保障を考える-

中程のページに各国のジニ係数の比較があります。アメリカは突出して高いですが、アメリカ、イギリス、そして日本と続きます。ドイツやフランスなどのヨーロッパ各国は、イギリスを除いて日本より小さい。日本はすでに総中流社会ではなく、世界的に格差のある国なのです。

日本は社会保障が行き届いていますが、例えば男女の雇用機会や収入はどうでしょうか? 日本は男女不平等が明らかに目立っており、スティグリッツ教授の立場に立てば、そこに改善の余地があるといえるでしょう。

別の記事で紹介しますが、日本は金融機関のシステムが硬直し、一人あたりの研究開発費も低く抑えられています(研究開発費そのものではない。一人あたりの研究開発費)。本書で紹介されている問題は日本でも起きているのです。

参考文献
ジョセフ・E・スティグリッツ著、桐谷知未訳『スティグリッツ教授のこれから始まる「新しい世界経済」の教科書』(徳間書店、2016年)

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